2012年9月米田秀樹氏

2012年9月 月例講演会報告

日本の半導体産業の現状と未来

講師:




日時


米田秀樹氏
Executive Vice President of Business Development

川崎マイクロエレクトロニクス(株)アメリカ支社


2012年9月5日(水)

略歴








講演内容


1986年に川崎製鉄に入社、事業企画担当や設計エンジニアとしてASIC事業の立ち上げに携わった。1999年にボストンコンサルティンググループへ転職、東京オフィスで日本の通信、電気産業を中心に戦略コンサルティングに携わった。2001年ボストンコンサルティンググループを退社後、フリーのコンサルティングやVC業務を行う。2002年に川崎マイクロエレクトロニクスに入社、米国支社で北米、EMEAの営業、通信分野のマーケティングを担当する。東京大学工学部卒、Texas A&M大学院電気工学修士



1. 日本の半導体産業の現状
  • ルネサスは事業統合続き、エルピーダ社は会社更生法を申請中
  • 30年前は、日本の半導体産業全盛期
    • 顧客の半導体産業衰退も一因と考えられるが、その他にも原因があるのではないか
  • 業界の市場売り上げを過去と比較すると、20数年前は日本企業が世界ランキングで上位10社中6社を占めていたのに対し、2011年には2社しか食い込めていないという現状
2. 競争変数
  • 昔から、日本の半導体企業は製造技術は強い反面、マーケティングや設計が弱いといわれてきた
  • 時代とともに、製造技術の強みが通用しなくなってきた
3. ロジックLSI事業のバリューチェーン
IP(回路設計)、②設計、③製造、④マーケティングの4つの行程により成立

  • 80年代までは、4つの行程を一貫した垂直統合型プレーヤーが主流だったが、2000年代以降、各工程の分業化が進行。製造、設計&マーケティング、IP開発のバリューチェーンをばらばらの会社が行う事業形態が主流となっていった。
  • 過去3年ほど、TSMC(台湾)が製造バリューチェーンでのマーケットシェアが50%を越え、独走態勢に入ってきた。
  • 同様のバリューチェーンは、PC業界など他の産業でも発生

4. デコンストラクション
  • 産業の新興段階では単一だったバリューチェーンが、業界の発達とともに分解し再構築する現象:e.g. コンピュータ産業、長距離通信産業、 医療産業、電力産業 など
    • 米国では他社へのアウトソースなどでの分業が盛ん(e.g. 米国キャリア、LCC(格安航空キャリア)など)
  • 一度、デコンストラクションが起こり始めると、垂直統合型に戻ることは不可能、またその流れに逆らうことは出来ない
  • 一般的にレイヤーマスター(あるレイヤーを6-7割占有するプレーヤー)が出現すると、他のレイヤー利益は減少。
    • e.g. PC業界の例
  • デコンストラクションが発生するメカニズム
    • ユーザーの要求レベルは一般に、リニアに上昇する
    • 技術革新は経験値が蓄積されると、あるポイントで急速に上昇→ユーザー要求レベルを超えると、そこから「統合型モジュラー型生産システム」へのシフトが開始。理由は一般論として統合型の方が技術革新度の絶対値は高いが、ユーザーの満足度はリニアにしか向上しないので、ある時点以降では、コスト的なメリットのある分業型がマーケットシェアを握る様になる。
    • 例)PC業界:既にモジュラー型生産へのシフトが完了

タブレット業界:まだシフト開始ポイントの手前であるが故に、統合型生産システムが有利(e.g. Apple)

    • 統合型とモジュラー型企業の比較;

統合型:高い完成度、高い技術、人材と特許により他社に先駆けた製品開発&提供

モジュラー型:安価、開発サイクルの高速化

どちらがよいかは企業次第だが、商品ライフサイクルで考えるときライフの総粗利ではモジュラー型企業がよいとは限らない。なぜなら商品の利益率は前半が高く、後半は低くなるから。


5. レイヤーマスターに対する対処法はあるのか

  • 唯一の解としての“破壊的イノベーション”(by クリステンセン)
  • 3つのパターン
    • 非連続イノベーション:異質のものが、ある日突然市場に出現
    • 無市場ローエンド型イノベーション:低性能、ローエンドのものが時間とともに改良され、市場に受け入れられていく
    • 破壊的イノベーションの実例:鉄鋼業界(高炉 vs 電炉)、百科事典(ブリタニカ vs Wikipedia)
    • レイヤーマスターは、既に大きな市場シェアをもち高コスト体質になっているため、破壊的イノベーションにより業界全体が転換する際には、真っ先に倒れる。
6. 半導体業界での破壊的イノベーションの可能性
  • CMOSロジックの分野では、すぐには発生しそうにない。
    • このような状況で、企業が生き残る方法はあるのか?
  • レイヤーマスターに対抗する方法、その1:①ニッチ市場に特化したビジネス展開、②特異な地域市場をターゲットしたビジネス戦略
    • ただし、上記の2戦略を実践するには、企業構造の大幅転換が必要
  • レイヤーマスターに対抗する方法、その2:アプリケーション特化で 別の業界分野のレイヤーマスターを追求する
    • 例:Qualcomm
7. 今後の日本の半導体産業
  • 日本の半導体業界で今後有望と思われる分野;
  • マイクロコントローラ:アプリケーション特化する方法はある(e.g. 自動車/EV)、今後どれだけ既存プレーヤーを凌ぐ戦略を展開できるかがポイント
  • 日本の半導体業界の生き残る道
    • 組織の大幅変更:

製造主体からマーケティング主導へ

雇用の流動性:「人材使い捨て」のアプリケーション特化型戦略は、日本の会社組織にはそぐわない

ロジックLSI分野は中長期的に難しい

  • メモリー産業:

日本の組織運営にマッチ、伝統工芸品を作り上げるような改良過程のあり方が日本にあった分野ではないか

更に、今後CPU中心からメモリー中心の市場が主流となる時代がくる可能性もある?(※講演資料 p.26参照)

8. 日本の半導体企業の失敗

  • 10年以上前に、今日の半導体業界の様相が既に予想されていた
    • TSMC対抗戦略として、ファンドリービジネスを推進し、スケールビジネスを追求、複数企業によるファンドリー企業“JSMC”構想を作成
    • コンサルタントとしてプランを提案したが、結局JSMC案は実現せず
    • JSMC案失敗の原因;

企業経営者にとっては呉越同舟が難しかった

市場は国内だけではないという認識が薄かった

現場と経営者トップとの危機認識のずれ

更にライセンシングなど、“バラ売り”に対する抵抗感もあった

日本人は長期的なビジョンを持つのが苦手ではないか


議論、Q&Aセッション

Q1: CPU業界でも同様にデコンストラクションの波は起こるのか。

A1: 例えば既にAMDのドレスデン製造工場は分離されている。インテルが今後、同様の道をたどるかどうかは不明だが、今後TSMCへの技術ライセンシングで製造委託、といったシナリオもあるかもしれない。


Q2: JSMC案は、実際に企業のマネジメントまで届いたにも関わらず、実現しなかったのか。

A2: とある企業の副社長とも直接話をしたが、そのときは彼自身は理解していた。新しい工場を作る際の工場稼働の“先物市場”構想などの話が活発にでた。そのような話は、各社の経営企画などにも伝わっていたと思う。

 

Q3: NECや富士通など、見ている範囲が半導体のみではない企業のマネジメントに対する今後やってくるであろうデコンストラクションの波の影響やインパクトはどうか。

A3: 影響やインパクトはあると思う。以前は1つのビジネスモデルでよかったが、いまでは様々な業界で(例えば半導体産業では)複数の事業特性が異なる企業が並存している。そこではスケールが重要でそれを中心に経営する(例えばTSMCなど)会社やそれと対極にファブレス中規模企業は少ない資金で製品を作っており、あたるかあたらないかで雲泥の差がある会社もある。IPベンダーのようなシリコンバレースタートアップ型企業は、資金は要らないが賢いヒトが社内の大半を占める。まず、このような業界の状況で全てを内包するall-in-oneタイプの会社がこれらの会社と対抗するのは難しい。

 さらに忘れられがちなのは、世の中は常に変化するということ。11年前にボストンコンサルティングで日米の株式リターンレートを1年分調べたことがあったが、米国資本市場が5.5%程度であったのに対し、日本はわずか2.2-5%であった。国が経済成長過程にある段階では、国のGDPが成長するため、企業投資に対するリターンがほとんどなくとも投資は可能。しかし、現在の日本のように経済が成熟しきってしまった場合、リターンなしでの投資はほとんど見込めない。台湾や韓国など高度成長末期にある国との1つの違いはそこにある。このような状況ではスケールが重要で資本集約型のファンドリービジネスを日本で立ち上げることは不可能に近い。

 技術のみならず、事業特性の違い、国の資本市場の成熟度、国の成長ステージによる一般社員の行動の違いなどを考えないと事業の成功は難しくなる。

                                      

Q4: 日本企業はマーケティングが弱いという話があったが、この点を補強しないと先はないのではないか。

A4: 日本では、営業のトップ(=VP Sales)が偉いのに対し、米国企業ではSalesではなく、VP Marketingが大きな権限を持つ。米国市場でマーケティングが重要性を持つ 1つの現れだと思う。

 

Q5: 日本の製造業は、モジュール技術に対して擦り合わせ技術(=統合型)に強いと思っている。日本企業がレイヤーマスターになるためにはどうすればよいかという議論は、経産省などとも協議している。

PC業界では、これまでの擦り合わせ技術がモジュール技術に取って代わられたということだと理解している。モジュール技術はいってみれば標準化ということだと思うが、今後どうするかという点については、この標準化の技術を我々の得意とする分野の外側に置き、日本企業が標準化に戦略的に取り組む必要があると思う。

A5: 例えば、携帯電話分野での「次」はLTEだが、ある製品の次の企画を考えるところまでいけば、その会社はこの先も生き延びられる可能性が高いだろう。また、マザーマシンは、わずかな性能の差が差別化要素となるため、可能性があるが、市場規模は小さくなる。ここを狙うには、やはり企業構造を変革する必要がある。

 

Q6: 小規模でニッチ市場を追求するのは1つの生き残り策だが、現在の企業規模・一体性を維持しながらグローバル市場で生き残る道はないか。

A6: ニッチ市場やマザーマシンの分野は1つの策だが、現在の規模の雇用は維持できない。余剰雇用をどうするかという問題は残る。これは現実であり、その1つ対策としては、シリコンバレースタートアップ型の組織に変革し、不足する専門家層を海外から輸入するという方法がある。その他の方策としては、余剰雇用を使って農業を活性化する、など。

 

Q7: エルピーダは今後どうなるのか。

A7: マイクロンの傘下に入れば、給与カットもあるかもしれないが、今後もこのまま継続するのではないかと思う。USの工場は閉鎖して全て広島の工場に投資するようになるくらいがんばって欲しい。会社の国籍は意味はなくどうでもよい。DRAMの技術開発や製造技術の維持が日本で行われることが重要。

 

Q8: 業界デコンストラクションが発生するそのトリガーや、業界バリューチェーンのなかでのベンチャーの役割はなにか。

A8: ベンチャーはスタートアップと異なる。デコンストラクション後のバリューチェーンにおける各プレーヤーは成熟産業であるがため規模や資本が必要でスタートアップではありえない。むしろある企業の一部が切り離されて外部資本が投入され、ベンチャーとしてデコンストラクションプレーヤーとしての機能を果たす、ということはある。 スタートアップがプレーする分野は、どちらかというと破壊的イノベーション。

 



プレゼンの内容は添付の資料をご覧下さい。

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Yasuhiko Nagaoka,
2012/09/10 23:36
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